1. 審査の視点
(1)評価基準
まず、情報開示、資金の透明性、公序良俗や市民参加など基本的な要件を満たしているか否かについて確認しました。 次に、課題解決力については、自己評価と同様に、エクセレントNPO評価基準に基づき審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度把握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、目標達成にむけてどのようにリーダーシップを発揮しているのか、さらに政策提言や、その際の政治的・宗教的な中立性をどのように担保しているのかが、審査の視点になりました。
(2)高い評点を得た団体の特徴
高い評点を得た団体には次のような特徴がみられました。すなわち、自らが取り組む課題を明確に把握していることは無論のこと、課題の認識を進化させ、それに伴い活動や事業を進化させ、一定の成果を上げているという点です。また、新たな活動に着手すると、気づかぬうちに組織の使命や目的から逸脱し、事業構成が散漫になり焦点がぼけてしまうことがあります。しかし、受賞団体は活動を進化させながら、その使命をよりシャープなものにしているといえるでしょう。また自己評価も適切に行われているケースが多く、何を達成でき、今後の課題は何であるのかを明確に説明していました。
2. 審査結果
(1)課題解決力賞:「多文化共生センター東京」
「多文化共生センター東京」は、15歳を過ぎた外国籍の子供たちの教育の問題、不登校、ドロップアウトなどに着目しており、問題の認識の仕方が明確かつ適切でした。子供たちの学就状況や生活状況について実態調査を行い、彼らの問題を体系的に捉えようとしていることがその活動報告や申請書に記された自己評価の内容から伝わってきました。こうした実態調査を踏まえて、自身も外国籍を持つ若者たちを中心に地道に教育支援活動を展開されてきたことが評価されました。また、現場に密着した活動から、我が国の制度や政策の問題に気づき、分析を行い提言へと発展させています。例えば、1999年の入管法の改正によって外国人が増えながら、彼らへの社会保障制度が整っていないことについて分析を行い、政策提言を行っています。 このように、目前に見える外国籍の子供たちが抱える問題を捉えるだけでなく、その背景にある問題を捉え、自らの課題認識を深め進化させていますが、こうした点が高く評価されました。ただしHP上の情報開示面では、もう少しわかりやすく工夫する余地があると思われます。
(2)ノミネート団体
「放射線医療国際協力推進機構」
「放射線医療国際協力推進機構」は、放射線医療について途上段階にある東南アジア、中東諸国に対して、中古機器の供与とともに、それを使いこなすための訓練や専門家派遣を民間の力で実現しています。しかも活動の規模に比し少額の費用で活動を展開できていますが、それは多くの医師のボランティア等に支えられているからです。また、自己評価の中で、対象国の文化や制度についての理解が不可欠であるにもかかわらず、理解がまだ不十分であることを記しています。これは、開発援助において最も重要な課題のひとつであり、開発の専門家でも容易に克服できないもののひとつです。この課題を適切に捉えていること、他の評価項目についても、自らの強みと弱みを冷静に捉え、適切に記されている点が高く評価されました。ただし、政治的な中立性に関する説明やボランティア等も含む実質的な費用を明確にされると良いと思われます。
「3Keys」
「3Keys」は児童養護施設の子供たちの学力向上支援をし、将来の道を切り拓くことを後押しすることを目的にする教育系のNPOです。児童養護施設や母子家庭にかかる基本データなどを分析し、これらの問題についてわかりやすく解説しています。また、学習指導方法については、設立者が国内外で学んだ専門知識をいかし、きめ細かに、かつ継続的に改善がなされている点が高く評価されました。ただし、スリーキーズの使命や目的に基づけば、子供たちの学力向上度や高校卒業後の進路など具体的な目標を設定し、その到達度を検証してゆけば、さらなる発展を遂げられるのではないかと思われました。
「POSSE」
「POSSE」は、若者の就労・貧困問題の解決を目指して、大学・大学院生が主体となって活動しているNPOです。特に、最近、話題になっているブラック企業問題については先駆的に調査活動に取り組み、その内容はメディアでも頻繁に取り上げられています。また、POSSE自身が、この問題についてオピニオン・リーダーの役割を果たしている点が高く評価されました。ただし、若者の就労・貧困問題の解決という使命に照らし合わせた時、ブラック企業問題以外の問題も含めて複合的に取り組まねば目的は達成されないのではないでしょうか。したがって、今後、どのように活動を展開してゆくのかが問われるところであり、また楽しみなところでもあります。また公的資金への依存度が高い点も見直す必要があるという指摘もありました。
「海をつくる会」
「海をつくる会」は、神奈川県、被災地の海辺を中心に清掃事業、アマ藻の育成などの生態系の保全などの活動を行っています。自身が述べるように、活動を続ける中で、様々なニーズが見え、それに対応したことで今の活動に至っています。とかく活動を遂行することで手一杯になりがちですが、活動状況を冷静に見つめ、そこから新たなニーズを発見し、すぐにアクションにつなげることのできる行動力が高く評価されました。また、これまで犬猿の中であると言われてきたダイバーと漁師が海の保全のために協力関係が生まれてきたという点は複数の審査委員から「面白い」という意見が出されていました。活動の中でこうした出会いや人間関係が生まれることは非営利活動の醍醐味でもあるでしょう。ただ、生態系の保全や人々の意識改革という目的に照らし合わせた時、より体系的な活動が必要になるのではないか、今後の展開については未知数である、などの意見が出されました。
3. 審査過程にみる課題
審査は、自己評価書を中心に、応募資料やインターネット情報を調べることによって行われていますが、今年は、団体に直接情報提供やヒアリングをさせていただくことを加え、より丁寧に審査を行いました。 第1回は、自己評価をオール満点で申請される団体が目立ったのですが、第2回はこうした申請は減り、自らを客観視して自己評価をしようとする申請書が増えました。第1回の申請者全員に結果をお知らせする際にコメントをつけ、この点を説明させていただきましたが、自己評価の適切性が重要であることが少しずつ共有されてきているのではないかと思われます。 また、根拠データに基づいて活動の進捗や効果の発現状況を確認されている団体も増えていました。こうした活動には一定の知識や技術が必要になりますが、大学生など若い方々を中心に学びの成果を実践に生かされているように見えました。 他方、目標の設定と事業や計画の立案という点では課題が残ったようです。すなわち、貧困削減や環境保全など社会的に大きな問題に着手する場合には、当面はどこの誰を対象にするのか、その対象には具体的にどのような課題があるのか、その課題を克服するためには、どのような解決策が必要か、それはひとつなのか、複数必要なのか等、体系的に考えてゆく必要があります。しかし、大きな目標に対して、一種類の活動で対応しているような団体は少なくありませんでした。事業や計画に体系性を持たせることは、より上のレベルの知識や技術が求められるかもしれません。しかし、ここに応募されている団体はこうした段階にチャレンジできる力を持っていらっしゃるのではないかと思いました。 なお、第1回においても話題になりましたが、政治的中立性、そして資金の透明性の意味概念についてはより一層、問題意識を共有してゆく必要があると思います。