「第5回エクセレントNPO大賞」表彰式 報告
1月18日、毎日新聞社「毎日ホール」において、「第5回エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われました。
合計156団体からご応募をいただき、その中で栄えある「第5回エクセレントNPO大賞」は、「Learning for All」が受賞しました。
部門賞では、市民賞を「アルテピアッツァびばい」、課題解決力賞を「Learning for All」、組織力賞を「ホームホスピス宮崎」がそれぞれ受賞しました。
各賞の受賞団体、ノミネート団体は以下のとおりです。
(1)エクセレントNPO大賞
受賞団体:Learning for All( ⇒ 受賞インタビューはこちら)
(2)市民賞
受賞団体:アルテピアッツァびばい( ⇒ 受賞インタビューはこちら)
ノミネート団体:アルテピアッツァびばい / 高知こどもの図書館 / カタリバ /
遠野まごころネット / 和白干潟を守る会
(3)課題解決力賞
受賞団体:Learning for All( ⇒ 受賞インタビューはこちら)
ノミネート団体:Learning for All / エイズ孤児支援NGO・PLAS / しんせい /
介護保険市民オンブズマン機構大阪
(4)組織力賞
受賞団体:ホームホスピス宮崎( ⇒ 受賞インタビューはこちら)
ノミネート団体:TABLE FOR TWO International / ホームホスピス宮崎 /
テラ・ルネッサンス / 美ら海振興会 / みらいの森
強い民主主義のためには強い市民社会が不可欠
表彰式ではまず、「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」の事務局を務める言論NPO代表の工藤泰志が主催者挨拶に登壇。その中で工藤はまず、昨今の世界の政治においてポピュリズムが台頭し、民主主義の基盤が揺らぎ始めていると述べ、「民主主義が今問われている」と語りました。そうした中、「強い民主主義」が求められるが、「そのためには市民層の中で課題解決を競い合う好循環が必要」とする一方で、いまだそうした状況が生まれていないことを指摘。さらに、昨年言論NPOが実施した「民主主義体制を支える組織、機関に対する信頼」に関する世論調査では、NPOに対する信頼が3割程度にとどまったという結果を紹介。その上で、「市民層の中で課題解決に向かう動きがあるということをクローズアップし、広く一般の方々にも知っていただく」、「NPO自身も、今問われている課題について考える機会になる」などとこの「エクセレントNPO大賞」の意義を強調しました。
市民の自立と自律が社会の「厚み」を生む
続いて、共催する毎日新聞社主筆の小松浩氏が共催者挨拶に登壇。まず、今年1月8日の毎日新聞の社説のテーマが「平成を振り返る」だったことを紹介。
※(論始め2018 終わりゆく平成 新しい時代へ模索が続くhttps://mainichi.jp/articles/20180108/ddm/005/070/054000c)
それを踏まえた上で、平成という時代を大災害が続出するなど「暗いイメージもあった」としつつも、「NPOが増えたことは光明」とし、その証左として1998年のNPO法制定以降、毎日新聞の紙面で「NPO」が取り上げられた記事が約8万5000件にも上ったことを紹介し、NPOが世界のみならず日本においても社会における重要な構成要素となったことを強調しました。
さらに、工藤と同様に現在の世界の民主主義の状況についても言及。そこでは、「権威主義体制が世界で評価されているが、『上から秩序を与えられた社会』というのは実に脆い」とする一方で、「やはり、市民の自立と自律が社会の『厚み』を生む。権威主義体制に移行しないためにも『強い市民社会』の実現は不可欠だ」と述べて、NPOに対する強い期待を寄せました。
そして、大学改革支援・学位授与機構特任教授で、「エクセレントNPO大賞」審査委員の 田中弥生氏より、本賞の概要と審査方法について説明がなされた後、表彰に移りました。
「市民賞」は「アルテピアッツァびばい」
まず、部門賞のうち、「市民賞」についての講評が法政大学名誉教授の山岡義典審査委員より行われました。山岡氏は審査の視点として、「活動がボランティアや寄付者による参加という形で多くの市民に開かれ、さらに参加する人々へ十分な配慮がなされているか」という点を重視しているとした上で、ボランティアについては、「参加や活動を通じて彼らの成長につながるような工夫がなされているか」、寄付者については、「寄付受領のお知らせや活動報告などが迅速、適切になされ、信頼を築くための努力がなされているか」がポイントとなると説明。さらに、ボランティアと寄付者に対して、団体が取り組む社会課題の理解を促す努力も問われると説明しました。
そうした視点から市民賞に選ばれたのは、美唄市より指定管理者として市の芸術文化交流施設アルテピアッツァ美唄(彫刻家・安田侃氏が今なお創り続ける、大自然と彫刻とが相響する野外彫刻美術館)の維持・管理・保全をしている「特定非営利活動法人アルテピアッツァびばい」でした。山岡氏は、ボランティアと寄付者など、団体の活動に参加する人々への配慮が特に丁寧になされている点を高く評価しました。
受賞スピーチで、「アルテピアッツァびばい」理事長の磯田憲一氏は、自団体の活動を支援してくださる方々を「アルテ市民ポポロ」と呼び、ともに管理運営を担う立場としている理由を、「単に応援する・されるという関係ではなく、『そこに属する』ということに喜びを感じてもらいたいから」と説明しました。
山岡氏は最後に、今回の選考では、「応募された団体は、いずれも寄付者やボランティアを資金や役務の単なる提供者としてだけではなく、団体の運営に不可欠な構成員として捉え、積極的に多様な役割を与えている様子が伝わってきた」と評価。そして、「ボランティアや寄付者が団体と関わることで、彼らがどう変化し、成長を遂げてきたかを体系的に整理していくと、団体にとって有益となるばかりでなく、他団体の参考にもなり、市民社会全体の発展にも資することになる」と今後に向けての期待を寄せました。
⇒「市民賞」の講評全文はこちら
「課題解決力賞」は「Learning for All」
続いて、「課題解決力賞」の表彰に入り、まず近藤文化・外交研究所代表で、元文化庁長官の近藤誠一審査委員より講評が行われました。
近藤氏は、現在の世界には各国政府では対応困難な課題が山積みされている中、これを解決していく上では市民社会の力が必要不可欠になってきていると力説。しかし、市民社会を支えるNPOなど非営利組織は人材面、財政面など多くの制約を抱えているため、やみくもに何でも取り組むのではなく、しっかりと課題を認識することが重要と指摘。したがって、審査のポイントとして「課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度把握しているか。こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか。また、アウトカムを意識した活動をしているかなどの視点を重視した」と説明しました。
そうした視点から課題解決力賞に選ばれたのは、困難を抱える子どもたちに対して、子ども一人ひとりに合った学習支援を実施している「Learning for All」でした。近藤氏は、課題認識の明確さ、目標設定の具体性など、課題解決の基本となる点をしっかりと押さえた上で、実績を積まれている点を高く評価しました。
受賞スピーチで、「Learning for All」代表理事の李炯植氏は、2010年の活動開始以降、「子ども一人ひとりに寄り添って人生を支えることがこれほど難しいとは」と自らが携わる課題の大きさについて率直に吐露。しかし、「7年間かけて我々も学習、チャレンジ、振り返りを繰り返し、やればやるほど子どもの状況を改善するためにやらなければならないことがあることがわかってきた」とし、「子どもたちのためにこれからも事業を続けていきたい」と今後の事業に向けての強い意欲も示しました。
近藤氏は最後に、「課題解決賞にノミネートされた団体は、いずれも、アウトカム、すなわち事業の対象となる地域や人々への効果や影響を目指した活動をしており、課題解決を意識する団体が増加していることが感じられた」とする一方で、「目標を設定し、それを数値化された適切な指標で管理するという点では課題が残るようだ」と指摘。今後の課題として、「アウトカムをベースにした中長期の目標を立て、そこに至る段階での目指すべき変化や効果をより具体的に定義した上で、それぞれの達成度合いをより具体的に整理すれば、より有効な計画を立案できると思われるので、今後に期待したい」と改善を促しました。
⇒「課題解決力賞」の講評全文はこちら
「組織力賞」は「ホームホスピス宮崎」
部門賞の最後として、「組織力賞」の表彰に入り、横浜市芸術文化振興財団専務理事で、「エクセレントNPOをめざそう市民会議」共同代表の島田京子審査委員より講評が行われました。
島田氏は、主催者挨拶で工藤が言及した「NPOに対する信頼度は3割程度」という数字について、「これはまさしく『外部からは見えにくい』という組織力の問題が影響しているのではないか」と指摘。したがって、「組織の使命や目的が文書に明示され、その課題や方針が明確になっているか。事業の成果がホームページなどで公開されているか、など情報開示、資金調達の多様性や透明性などの点を中心に審査を行った」と審査のポイントを説明。また、活動に見合った運営の独立性や中立性を維持しているか、使命を持続的に遂行できる基盤を十分に持っているのか、という面も審査のポイントになったと述べました。
そうした視点から組織力賞に選ばれたのは、在宅での生活を願う患者さんを支えようと立ち上がった医師、看護師などの医療職、介護職、患者や遺族らが中心となって活動を発足させた「認定特定非営利活動法人ホームホスピス宮崎」でした。島田氏は、団体の独立性、中立性、多様性を強く意識した運営に特に努めている点を高く評価しました。
受賞スピーチで「ホームホスピス宮崎」理事長の市原美穂氏は、「NPOはどうしても財政基盤が脆弱になりがちであるので、その強化に腐心してきたことが受賞につながったのではないか」とした上で、「活動の輪は全国につながってきている。今後も組織運営をしっかりと進めるとともに、人材育成にも取り組んできたい」と今後の意気込みを語りました。
島田氏は最後に、「どの組織も、組織の持続性の観点から資金源の多様化が大きな課題となる。支援者の特性に合わせ、face to faceのコミュニケーションによって構築していく深い信頼関係に基づいた寄付の獲得。またSNSをはじめとする新たな資金獲得手法などにも積極的に取り組まれていくことを期待している」と今後に期待を寄せました。
さらに現在、「人材育成」は応募の際の自己評価基準にはなっていないため審査の対象としていないものの、「効果的な事業の推進と持続性の観点から、重要な課題は組織運営を担う人材の育成だ。将来を見据えた組織力の強化としても、今後、検討すべき課題である」と考え、審査基準のさらなる見直しを示唆しました。
⇒「組織力賞」の講評全文はこちら
大賞を受賞したのは、「Learning for All」
各部門賞の表彰を経て、国際交流基金顧問で、「エクセレントNPOをめざそう市民会議」共同代表の小倉和夫審査委員長による「第5回エクセレントNPO大賞」の発表に移りました。
大賞を受賞したのは、課題解決力賞を受賞した「Learning for All」でした。
この結果を受けて、再度登壇した李炯植氏は、「平成2年に生まれた自分自身、『失われた30年』の中を生きてきたので、市民社会を強くしなければならない、と感じている。大賞の名に恥じないようにこれからも活動に取り組み、市民社会を前に進めることに貢献していきたい」と喜びと同時に強い決意も口にしました。
「第5回エクセレントNPO大賞」から浮き彫りとなった課題とは
続いて、田中氏より全体講評が行われました。
まず、過去最多となる156件の応募があった今回の特徴として田中氏は、日本の非営利組織は福祉や医療系の団体が多い中、「今年は子どもの健全育成に携わる団体数が伸張していた」ことを紹介し、「これは社会の趨勢を表しているのではないか」と指摘しました。
そして、応募団体のレベルについては、審査点の得点率が平均で60~65%となり、これは「昨年と比較しても5ポイント上がっており、全般的にレベルアップしている」と評しました。
さらに、もう一つの特徴として「リピーター数が多い」ことも指摘。「二度、三度と応募するプロセスで、基準により適切かつ簡潔に回答できるようになっている姿を見出すことができる」とし、実際、今回大賞に輝いた「Learning for All」も三度目の挑戦での栄冠だったことを紹介しました。
もっとも田中氏は、リピーター数が多いことは、「新たな参加者にとっては障害になるのではないか。あるいは、運営側の新規開拓の力が不足しているのではないか、という議論も審査委員会の方ではなされた」とし、運営側の宿題も提示しました。
次に田中氏は、「自己評価書の記載を評価基準ごとに読んでいくと、様々な課題が見えてくる」とした上で非営利組織の課題、さらには市民社会の課題についても言及。
まず、団体が直接的に取り組む課題やテーマを問う「基準5」について、「多くの団体が明確に記せていないか、苦労していたようだ」とし、「課題の把握は、それに続く目的、計画、さらに事後評価の全ての工程に影響する基点なので、ここが明確でないと後に続く活動もマイナスに左右する可能性がある」と注意を促しました。
また、社会的なインパクトを視野に入れているかを尋ねる「基準7」についても、「多くの団体が明確に記していなかった」と振り返りましたが、「すべての非営利組織がインパクトを求める必要があるのだろうかという意見もある」とし、これは非常にクリアすることが難しい基準であることを認めました。
しかし同時に、「今のこの時代ほど、国内外の社会の変化に目を向ける姿勢や大きな視点が大事な時代はない。欧米諸国で指摘されている民主主義の危機がその一例だが、あまりにも変化が激しいために、誰もが答えを模索している。そうした中では、どんなに正しいと思っている活動も気づかぬうちに軌道を外してしまう危険性を誰もが抱えている」と語りました。その上で、「目の前の課題とともに、大きな社会を見る。この二つをつなげる視点が基準7であるが、これを入れ続けるべきかは慎重に検討すべき大きな宿題」とここでも運営側の課題を口にしました。
その他にも、NPO法の制定から20年が経過し、多くのNPOが「高齢化と疲労感を抱える中、これをどう克服するのか」といったNPOセクターの活性化の問題などにも言及した後、最後に田中氏は、各応募団体に対して、従来よりもきめの細かなフィードバックをすることを約束し、全体講評を締めくくりました。
⇒全体講評全文はこちら
「社会の課題は自分の課題」という認識を広げるために
最後に、小倉氏より総評が行われました。
小倉氏はまず手話によって挨拶。「私たちは言葉でコミュニケーションをすることが当たり前と考える。しかし、社会の中には聴覚障がい者の方もいる。今日は手話の通訳がいないが、彼らとコミュニケーションをするためには誰が通訳を手配すればいいのか」と会場全体に問いかけました。小倉氏はその答えは、通訳が不要となるように「皆が手話を勉強すべき」とし、その理由として「障害とは、個人の問題ではなく社会の問題であり、社会の責任だからだ」と主張。その上で、「こうしたことを一番感じているのはNPO団体の皆さんではないか」と会場に語りかけ、「社会の課題は自分の課題」という認識が広がるように、「今度も皆さんと一緒に非営利の世界を盛り上げていきたい」と呼びかけ、二時間にわたる表彰式を締めくくりました。